【コロナ特集:旅館業法】旅館業に関する新たな動き

第1 はじめに

 2020年6月8日に新型コロナウイルスと宿泊契約に関する記事を寄稿しましたが、新型コロナウイルス感染症の流行の影響はいまだ完全な収束を見せるところではなく、ビジネスへの長期的な影響が予想されます。
 そこで今回は続編を2つ寄稿いたします。このうち本稿では、旅館業法の宿泊拒否事由に関する解釈や旅館業法改正に向けた動き、及び近年活発化しているサブスクリプション型住宅ビジネスと旅館業との関係について、検討したいと思います。
 なお、本記事は脱稿時点(2021年11月4日)時点の情報に基づくものであり、最新の状況については、厚生労働省などの政府機関や各自治体からの最新の通知・通達等を併せてご確認下さい。

第2 コロナウイルス感染症と旅館業法

1 現行の旅館業法に定める宿泊拒否事由及びその解釈の状況等
 (1)旅館業法の宿泊拒否事由の解釈
 前回記事のとおり、旅館業事業者は、旅館業法5条各号に定める以下の場合を除き、宿泊を拒んではならないとされています。
  ① 宿泊しようとする者が伝染性の疾病にかかっていると明らかに認められるとき。
  ② 宿泊しようとする者がとばく、その他の違法行為又は風紀を乱す行為をする虞があると認められるとき。
  ③ 宿泊施設に余裕がないときその他都道府県が条例で定める事由があるとき。
 新型コロナウイルス感染症は「伝染性の疾病」と解し得るため、仮に宿泊希望者が新型コロナウイルス感染症に罹患していると客観的に確認できれば①に該当すると考えられます [1]。しかし、コロナウイルス感染症への罹患はPCR検査などを受けて初めて客観的に確認可能なものであり、チェックイン時に発熱症状があるのみ等ではその場で「伝染性の疾病にかかっていると明らかに認められる」と判断することは難しいと考えます。宿泊希望者が新型コロナウイルス感染症への罹患を自己申告することも期待し難いため、①を理由とする宿泊拒否は、現実的にはハードルが高いと考えられます。
 次に、②については、旅館業における衛生管理要領[2]において、宿泊希望者が以下の場合には該当し得るものと解釈されています。
 (ア) 暴力団員等であるとき。
 (イ) 他の宿泊者に著しい迷惑を及ぼす言動をしたとき。
 (ウ) 宿泊に関し暴力的要求行為が行われ、又は合理的な範囲を超える負担を求められたとき。
 さらに、(イ)又は(ウ)への該当性については、
  ▶ チェックイン時の宿泊客に対する検温を行い、発熱や咳・咽頭痛などの症状がある場合には、本人の同意を得た上で宿泊施設近隣の医療機関や受診・相談センターに連絡し、その指示に従うこととすること
  (※発熱の目安は、37.5度以上の熱又は37.5度未満であっても平熱を超えることが明らかな場合とする。)
  ▶ 発熱や咳・咽頭痛の症状がある宿泊客については、客室(他の宿泊客と区分して待機する部屋がある場合は、その部屋)内で待機し、外に出ないことなど要請すること。
とした上で、上記指示・要請が社会通念上正当な範囲内であって、かつ、正当な理由がないにもかかわらず、当該指示に宿泊客が従わなかった場合は、「他の宿泊者に著しい迷惑を及ぼす言動」又は「合理的な範囲を超える負担」として旅館業法5条2号に該当すると考えられる、とされております[3]
 このように、現行法上の解釈においても、新型コロナウイルス感染症への罹患が客観的に明らかにならずとも、発熱等の症状がある宿泊希望者に対し、旅館業事業者は一定の場合には、宿泊を拒否出来ると考えられております。しかしながら、上記の解釈は法令上明確に記載されているものではなく、その認知や利用希望者への説明に難があることに加え、上記事項への該当性につき現場限りでの判断が難しい場合もあると思われます。さらに、最近は新型コロナウイルス感染症の濃厚接触者[4]が自主隔離場所として旅館やホテルを利用する例など、上記の解釈によっても宿泊を拒否できないケースもなお残っていると思われます[5]
 そのため、現在の旅行業法においては、コロナウイルス感染症に関連した対応に関する定めが万全ではない状況と言えます。


2 旅館業法改正に向けた検討
  上記の状況を踏まえ、現在、旅館業法の見直しに係る検討会(以下単に「検討会」といいます。)において、現在の旅館業法の課題やそれに対する提言等が議論されております。

(1)旅館業法5条所定の宿泊拒否事由に関する議論状況
 前記1のとおり、現在の旅館業法に基づく宿泊拒否事由では、コロナウイルス感染症への感染が客観的に認められる場合や、感染が疑われる症状がある宿泊希望者が旅館業事業者や保健所からの要請・指示に従わないなどの一定の場合に宿泊拒否が可能となっています。他方で、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言の発出やまん延防止等重点措置が講じられていること自体は宿泊拒否事由となっておらず、感染拡大防止のために旅館業事業者自らが柔軟に営業することが難しいのが現状です。
 また、新型コロナウイルス感染症の感染が疑われる方が旅館やホテルの利用を希望する場合(例えば、旅行先で濃厚接触者の通知を受けた旅行客が、公共交通機関を用いて移動ができないために旅行先の宿泊施設を利用する場合や、海外の新型コロナウイルス感染症の流行拡大地域から帰国したビジネスマンが自主隔離としてホテルを利用する場合)も、上記の現行法上の宿泊拒否事由に該当するとは解し難いため、旅館業事業者はこのような宿泊を受け入れざるを得ないのが現状であると言えます[6]
 しかし、このような宿泊の受け入れは、他の宿泊客や宿泊施設の業務に従事する方の生命や健康を確保する観点からはリスクがあるため、検討会において、旅館業法の宿泊拒否事由の拡大や、旅館業事業者による弾力的な宿泊施設の運用を求める提言がなされております。


(2)旅館業法6条に関する議論状況
 前回記事でも述べたとおり、現行の旅館業法では、宿泊名簿の記載事項や宿泊名簿等の保管義務が定められております(旅館業法6条1項、同法施行規則4条1項に加え、各都道府県の条例において宿泊名簿の記載事項が追加されている場合もあります。)[7]。これについても、個人情報の保護に関する法律において、個人情報の取扱いに関する規制が年々厳格化している状況を踏まえ、公衆衛生や治安維持の観点から必ずしも必要ではない記載事項の削除や、個人情報を含む宿泊名簿等の保管期間等の短縮といった提言がなされております[8]
 旅館業法等の法令や関連するガイドラインの改正に関しては、検討会も踏まえ、更に検討されていくこととなると考えられるため、引き続き注視が必要です。



[1] 実際に宿泊約款において「コロナウイルス感染症への罹患が明らかな場合」を宿泊拒否事由としているものとして、https://www.h-nankai.jp/privacypolicy/https://www.appi.co.jp/accommodation_agreement/

[2] 「公衆浴場における衛生等管理要領等について」(平成12年12月15日生衛発1811号厚生省生活衛生局長通知)別添3)。https://www.mhlw.go.jp/content/000704519.pdf

[3] 令和3年2月12日付厚生労働省医薬・生活衛生局生活衛生課から全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会宛の事務連絡。内容については以下などをご参照下さい。https://www.city.mihara.hiroshima.jp/uploaded/attachment/112981.pdf

[4] 濃厚接触者の定義については、下記問3参照。https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html#Q3-3

[5] 上記のような例について、第2回旅館業法の見直しに係る検討会資料2-1(3頁)においても言及されております。https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000826557.pdf

[6] 第2回旅館業法の見直しに係る検討会参考資料2-1(3頁)。https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000826557.pdf

[7] 各都道府県における記載事項の規定状況は、第2回旅館業法の見直しに係る検討会参考資料2(2頁)。https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000826353.pdf

[8] 第2回旅館業法の見直しに係る検討会資料1(4頁)https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000826315.pdf、2-1(7頁)https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000826557.pdf及び 2-2(2頁)https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000826558.pdf

第3 サブスクリプション型住宅ビジネスと旅館業法等との関係

最後に、検討会で議論されている実態として宿泊することが可能となっているビジネスのうち、近年増加しているサブスクリプション型住宅ビジネスについて、旅館業法との関係を簡単に検討したいと思います。

1 サブスクリプション型住宅ビジネスの概要
 検討会では、実態として宿泊することが可能となっているビジネスとして、24時間の利用や睡眠をとることが可能なスペースを提供するネットカフェ・漫画喫茶、レンタルスペースなどに加え、サブスクリプション型住宅ビジネス、すなわち、多拠点の物件を利用者に対して定額で賃貸し、各利用者による短期利用を認める、といったビジネスなどの旅館業該当性について、議論されております[9]。このうちサブスクリプション型住宅について、そのビジネスの具体的内容は事業者により様々ですが、例えば、利用者が事業者との間で事業者の保有する全物件(一軒家、ドミトリー等)に関する包括的な賃貸借契約を締結し、利用者が当該契約に基づき事業者に対し毎月定額の利用料を支払うとともにその対価として事業者が提供する全物件に一定期間(1週間など)住むことができる、といったサービスが考えられます。
 ところで、サブスクリプション型住宅ビジネスについては、産業競争力強化法に基づく、いわゆるグレーゾーン解消制度に対する厚生労働省からの2021年8月17日付回答[10](以下「2021年8月17日付回答」といいます。)において、「事業者が保有する全拠点に関する包括的な賃貸借契約を締結し、会員から月額の会員費用を徴収した上で、会員が事業者の保有する各施設のベッド又は個室を確保し、滞在できるようにする事業」が旅館業に該当するものと考えられる旨の回答が公表されております。そこで以下では同ビジネスの旅館業該当性について、検討したいと思います。

2 旅館業該当性に関する考え方
 「旅館業」とは、「宿泊料を受けて人を宿泊させる営業」と定義されております(旅館業法2条2項)。ここにいう宿泊料は、「名目だけではなく、実質的に寝具や部屋の使用料とみなされる、休憩料、寝具賃貸料、寝具等のクリーニング代、光熱水道費、室内清掃費」も宿泊料とみなされると考えられております[11]。また、「営業」とは、社会性をもって反復継続して行われるか否かで判断され[12]、さらに、「人を宿泊させる営業」に該当するには、貸室業との区別から、「施設の管理・経営形態を総体的にみて、宿泊者のいる部屋を含め施設の衛生上の維持管理責任が営業者にあると社会通念上認められること」、及び「施設を利用する宿泊者がその宿泊する部屋に生活の本拠を有さないことを原則として、営業しているものであること」の2点が条件となっております[13]
 以上を踏まえ、厚生労働者が旅館業の許可が必要な場合と不要な場合を判断する項目、内容及びこれらのポイントとして公表しているのは以下表のとおりです[14]

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旅館業該当性の解釈については、これまでも厚生労働省により考え方が整理されており、例えば、以下のようなものがあります。

 (1)「マンションホテルについて」(昭和49年5月11日環指第8号各都道府県知事・各指定都市市長あて厚生省環境衛生局指導課長通知)
 この事例は、マンションホテル(マンションの一般居室をその持主が使用しない時に隣接しているホテルが客室として借り受けて利用すること)について、ホテル事業者が借り受けたマンション居室を旅館業法の客室として取り扱わって良いかが照会された事案であり、旅館業法上の客室として取り使って差し替えない旨回答されています。

 (2)「旅館業法上の疑義について」(昭和56年7月31日環指第124号各都道府県・各政令市・各特別区衛生主管部(局)長あて厚生省環境衛生局指導課長通知)
 この事例は、マンションの1室につき10名と売買契約を締結し、各買主(所有者)は当該施設の占有部分及び共有部分の共有持分権を取得した上で、年間54泊の宿泊利用券を取得し利用する場合において、当該施設が旅館業法の適用対象施設となるかが照会された事案です。この事例では他にも以下のような事情が説明されています。
  ① 照会対象である施設の維持管理業務は、第三者が所有者からの委託を受けて行う。
  ② 各所有者に付与される年間54泊の宿泊利用券は第三者に譲渡可能であり、譲渡を受けた者は誰でも当該施設を利用できる。
  ③ 当該施設の利用における寝具は管理業者が提供する。食事の提供はない。
  ④ 当該施設の利用料として、利用者が宿泊の都度、室内清掃、シーツ類のクリーニング代等の実費と称し1000円を管理業者に支払うほか、各所有者が共有部分の管理経費を主とした一般的な管理費用として毎月4000円を管理業者に支払っている。
 この事例では、当該施設は旅館業法の適用対象施設である旨が回答されています。

 (3)「旅館業法運用上の疑義について」(昭和63年1月29日衛指第23号各都道府県・各政令市・各特別区衛生部(局)長あて厚生省生活衛生局指導課長通知)
 この事例は、いわゆるウィークリーマンションと称する短期宿泊型賃貸マンションが旅館業法の適用対象施設であるかが照会された事案です。具体的な施設の状況や管理状況として、この事例では他にも以下のような事情が説明されています。
  ① 照会対象である施設は既存のアパート、マンションの空室又は専用に建築した室を賃貸する。
  ② 利用日数の単位は、1週以上とし最長制限の定めはないが、実態としては1~2週間の短期利用者が大半である。
  ③ 利用者は手付金を支払って予約し、入居時までに物品保証金及び利用料等を支払い、賃貸契約を締結した上で入居する。
  ④ 客室には日常生活に必要な設備(調理設備、冷蔵庫、テレビ、浴室、寝具類等)が完備している。室内への電話器、家具等の持ち込みは禁止している。
  ⑤ 利用期間中における室内の清掃等の維持管理は、全て利用者が行う。また、賃貸人は、シーツ、枕カバーの取り換え、浴衣の提供等のリネンサービスは行わないが、利用者からの依頼があれば請負会社を斡旋する。
  ⑥ 賃貸人は利用者に対し食事を提供しない。
  ⑦ 光熱水費は各個メーターで契約解除時に別途清算する。
  ⑧ 施設利用者は、主として会社の短期出張者、研修生、受験生等である。
  この事例では、(i)契約上、利用期間中の室内の清掃等の維持管理は利用者が行うこととされているが、1~2週間程度という1月に満たない短期間のうちに、会社の出張、研修、受験等の特定の目的で不特定多数の利用者が反復して利用するものであること等、施設の管理・経営形態を総体的にみると、利用者交替時の室内の清掃・寝具類の管理等、施設の衛生管理の基本的な部分はなお営業者の責任において確保されていると見るべきものであることから、(ii)本施設の衛生上の維持管理責任は、社会通念上、営業者にあるとみられることや、その利用の期間、目的等からみて、本施設には利用者の生活の本拠はないとみられることから、旅館業法の適用対象施設であると回答されています。

 (4)「旅館業法の適用について(照会)」(平成19年12月10日保保生第154号厚生労働省健康局生活衛生課長あて京都市保健福祉局長通知)
  この事例は、いわゆる「町家レンタル」や「町家ステイ」等を称する以下のような各施設について、旅館業法の適用の可否が照会された事案です。
 【事例1】
  ① 利用者は、事前にインターネットや電話で旅行業者等に照会対象である施設の利用を申込み、利用当日、当該施設とは異なる施設(利用施設から直線距離で約150m離れた利用施設所有者(以下「所有者」という。)の店舗)において、所有者から利用方法の説明を受けるとともに、料金の支払いや鍵の受取り等を行う。所有者は、2階建て町家長屋(1棟4軒続き)の1軒を利用者に提供するものであり、当該施設に管理者等は常駐していない。
  ② 利用者は観光客等である。
  ③ 滞在期間は1泊からとしている。
  ④ 利用料金は、1日単位で1軒ごとに設定している(定員規定有)。
  ⑤ 当該施設の所有者は利用者に対し寝具の提供をしている。
  ⑥ 当該施設の管理主体は所有者である。
  ⑦ 当該施設は、「町家レンタル」、「町家ステイ」などと表現されている。

 【事例2】
  ① 利用者は、事前にインターネット等で旅行業者等に照会対象である施設の利用を申込み、利用当日、利用施設とは異なる施設(施設提供者(以下「提供者」という。)の事務所)、又は利用施設において、提供者から利用方法の説明を受けるとともに、鍵の受取り等を行う。料金の支払いについては、銀行振込等で行う。
  提供者は、本市内に点在する一戸建ての町家(6棟)を1棟ごと利用者に貸与するものであり、当該施設に管理者等は常駐していない。
  本事例では、宅地建物取引業法に基づき、利用者と提供者との間で定期賃貸借契約を結んでいる。
  ② 利用者、滞在期間、利用料金の設定方法、利用者への寝具の提供の有無、は①と同じ。
  ③ 施設の管理主体は提供者である。
  ④ 当該施設は「営業形態の表現:京町家ステイ、Weekly町家

 【事例3】
  ① 利用者は、事前にインターネットで旅行業者等に照会対象となった施設の利用を申込み、利用当日、事前に施設提供者(以下「提供者」という。)から電子メール等で通知された暗証番号を用い、解錠し施設を利用する。料金の支払いについては、クレジットカード等で行う。
  ② 利用者、滞在期間、利用料金の設定方法、利用者への寝具の提供の有無、は①と同じ。
  ③ 施設の管理主体は提供者である。
  ④ 営業形態の表現:御泊処、京町家ウィークリー
  この事例ではいずれの施設も旅館業法の適用対象であると回答されています。

3 サブスクリプション型住宅ビジネスの旅館業該当性について
 サブスクリプション型住宅ビジネスの具体的な内容は様々ですが、本稿では、2021年8月17日付回答で確認対象となっている、「事業者が保有する全拠点に関する包括的な賃貸借契約を締結し、会員から月額の会員費用を徴収した上で、会員が事業者の保有する各施設のベッド又は個室を確保し、滞在できるようにする事業」(以下「確認対象事業」といいます。)を念頭に、前記2の各判断基準への該当性を検討したいと思います。

(1)宿泊料の徴収の有無
 前記2のとおり、宿泊料は、名目にかかわらず実質的に寝具や部屋の使用料とみなされるもの(休憩料、寝具賃貸料、寝具等のクリーニング代、光熱水道費、室内清掃費など)が含まれるため、確認対象事業では会員から徴収する月額費用が宿泊料と評価できるかが問題となります。この点、確認対象事業では「会員は、個室の床・壁・家具の清掃を適宜行うほか、寝具や備品の交換作業を実施する。」とのことであり、このような事業実態に照らし、月額費用の一部又は全部が「各施設のベッド又は個室を確保し、滞在できる」ことへの対価として徴収されていることは否定できない、と解されたものと考えられます。

(2)社会性及び反復継続性の有無
 次に、確認対象事業の社会性及び反復継続性の有無については、2021年8月17日付回答において、端的に「多数の会員に対し継続して事業を提供するものとされている。」とされております。この理由について推察するに、まず社会性の要件は、宿泊の提供が「営業」と言えるかという観点から、当該提供が、知人・親戚・友人といった一定の人的関係を前提としたものか、それとも不特定多数の者に広く開放されたものか、を区別するために設けられていると考えられるところ、確認対象事業は前者のような一定の人的関係が必ずしも前提となっておらず、不特定多数の利用希望者が会員として登録することも想定されることから、社会性があると評価されたのではないかと考えられます。反復継続性についても、確認対象事業に基づく宿泊の提供はイベント等に応じた一過性のものではないことから、反復継続性があるものと評価されたと考えられます。

(3)生活の本拠の有無
 最後に、確認対象事業について「生活の本拠を有しない」と言えるか、を検討します。現在の旅館業該当性の考え方においては、この生活の本拠の有無を判断する要素の一例としては、使用する施設の維持管理責任の有無や使用期間などがあり、使用者自らが使用する施設の維持管理を行い、かつ使用期間が1か月以上の場合は、旅館業に該当しないものと整理されております。この判断要素に照らし、たとえ賃貸借契約という契約形態を採ったとしても、前記1(3)の事例のように、1日単位や1週間単位で部屋を貸し出すウィークリーマンションは、旅館業法上の適用対象施設と取り扱うものと解されております。その理由としては、賃貸借契約上、使用する施設の清掃等の維持管理を利用者が行うとされていたとしても、1~2週間程度という短期間のうちに出張、研修、受験等の特定の目的で不特定多数の利用者が反復して利用する場合もあることなど施設の管理・経営形態を総合的に見ると利用者交替時の室内の清掃・寝具類の管理等、施設の衛生管理の基本的な部分はなお営業者の責任において確保されていると見るべきこと、その利用期間・目的に照らし対象施設に利用者の生活の本拠がないと見受けられること、などが考えられます[15]。生活の本拠があるか否かは、施設の利用目的、利用期間、施設の管理・経営形態等を総合的に考慮して判断されるものであり、従来からの考え方を踏襲すれば、使用期間が1か月未満という短期間の利用は、その使用期間の短さからみた使用目的や施設管理の実態に照らし、利用者の生活の本拠がないと評価される可能性が高いものと考えられます。
 確認対象事業は、「同じ部屋の連続使用日数が最長で21日まで」と一施設の使用期間が1か月未満となっております。2021年8月17日付回答は、生活の本拠があるか否かは個別の事案に照らし総合的な判断が必要であるが、上記事業における連続使用日数に照らし、生活の本拠を有することが明らかではない、と判断しております。「個別の事案に即し、総合的な判断」とあるとおり、生活の本拠の有無が使用日数のみで判断されるものではないものの、従来からの考え方に照らし、確認対象事業は、使用期間が1か月未満の場合においてもなお生活の本拠を有すると判断するに足りる積極的な要素が見受けられなかったのではないかと考えられます。

4 サブスクリプション型住宅ビジネスは旅館業の許可なく営業可能か
 上記のとおり、2021年8月17日付回答では、確認対象事業が旅館業に該当するものと判断されています。他方で、この回答は個々のビジネスモデルに対する判断であり、当該回答がおよそ全てのサブスクリプション型住宅ビジネスに対して当然に適用されるものではありません。サブスクリプション型住宅ビジネスもその具体的な事業形態は事業者により様々であり、旅館業該当性は、事業形態ごとに判断されることとなります。
 そして、このようなサブスクリプション型住宅ビジネスがおよそ旅館業の対象となり得るかどうかについては、近年の居住の在り方の多様化も踏まえれば、旅館業に該当しないと解する余地もあるのではないかと考えられます。例えば、国土交通省からは、タイムシェア型住宅と称した、複数の者が住宅を賃借しその利用権を共有する(いわゆる賃借権の準共有)方法による住宅利用が提言されており[16]、また、地方の過疎化や空き家解消施策の一環として移住希望者に対する空き家物件への短期居住については一定の要件をもとに旅館業の適用とはならないとの厚生労働省による通知もあります[17]。このうち、タイムシェア型住宅では、その毎年の利用単位を最大52週に分割し、そのうち特定の7泊8日の利用をもって住宅として利用することが認められており、タイムシェア物件の利用者は、各人の利用権の存続期間中、同様のタイムシェア物件との間において権利期間を交換利用できる、といった利用方法が提言されております。旅館業との区別で言えば、タイムシェア型住宅は、ホテルや旅館のように不特定多数の利用者ではなく、利用権を持つ利用者が自らの住宅(別荘)として時間軸でシェアリングする点が一つの特徴のようですが、このような利用形態やその利用期間は、特定の賃借人が一つの賃借物件に一定期間継続的に居住するという従来の典型的な不動産賃貸借の態様と必ずしも合致しないものと考えられます。
 加えて、タイムシェア型住宅の「利用権を持つ利用者」とホテル・旅館の「不特定多数の利用者」の区別についても、後者において会員制のリゾートホテルビジネスが旅館業として解される一方で、前者の場合も賃借対象物件が多くなり利用者が増えれば一物件の利用者の不特定性は高まると言わざるを得ず、その区別はそれぞれの事業実態が多様化するにつれ相対的なものになっているとも考えられます。タイムシェア型住宅において物件の設備や家具、アメニティを営業者が維持管理し、利用者は1泊2日で利用するにとどまるような場合、その施設の利用態様がなお上記2(3)記載の「生活の本拠を有する」と言えるか、言えるならば、「生活の本拠を有する」と評価される利用態様も社会情勢の変化に伴い変化しているのではないかと考えます。
 タイムシェア型住宅にヒントを得たサブスクリプション型住宅ビジネスも実際に存在しているようですが[18]、このようなビジネスが旅館業の適用を受けるか、現に受けないとしても今後の利用者や利用物件の拡大等に応じて適用を受ける余地がないかは、2021年8月17日付回答も踏まえるとなお考え方が流動的であるように思われます。この点は、旅館業やいわゆる民泊事業との関係も含めた今後のさらなる議論が期待されます。

以上



[9]第2回旅館業法の見直しに係る検討会資料5(3頁)。https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000824221.pdf

[10] 「新事業活動に関する確認の求めに対する回答の内容の公表」(令和3年8月17日付厚生労働省からの回答)https://www.mhlw.go.jp/content/000819533.pdf

[11] 民泊サービスと旅館業法に関するQ&A、Q9。https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000111008.html

[12] 前掲Q5。

[13] 「下宿営業の範囲について」(昭和61年3月31日衛指第44号厚生労働省生活衛生局指導課長通知)https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta5209&dataType=1&pageNo=1

[14] 厚生労働省「旅館業法について」(2015年12月14日第2回「民泊サービスあり方に関する検討会」資料2)

[15] 前掲通知のうち(質問点)参照。

[16] かかるタイムシェア型供給住宅に関する事業スキームについては、国土交通省の平成21年度長期優良住宅等推進環境整備事業における株式会社リプロジェクト・パートナーズの報告書及びモデル契約等として公表されております。https://www.mlit.go.jp/report/press/house03_hh_000037.html

[17] 「移住希望者の空き家物件への短期居住等に係る旅館業法の運用について」(平成28年3月31日食発0331第2号厚生労働省医薬・生活衛生局 生活衛生・食品安全部生活衛生課長通知)。https://www.cao.go.jp/bunken-suishin/teianbosyu/doc/tb_h27fu_11_mhlw5.pdf

[18] 例えば、ADDressなどhttps://address.love/


(作成日:2021年11月5日)

文責:弁護士法人大江橋法律事務所 弁護士 福冨 友美
   

本稿は法的助言を目的とするものではなく具体的案件については別途弁護士の適切な助言を求めていただく必要があります。
本稿記載の見解は執筆担当者の執筆当時の個人的見解であり、当事務所の見解ではありません。

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