【コロナ特集:タイ①】COVID-19流行に対する金融支援措置(2020年5月26日時点)

1.はじめに

タイ政府は、COVID-19の感染拡大防止のため、2020年3月25日、非常事態における勅令に基づき、同年3月26日から4月30日までの1か月間、全国的に緊急事態宣言を発令し、5月26日時点において当該緊急事態宣言は6月末日まで延長されています。

緊急事態宣言を受けて、タイ政府は同年3月26日、バンコクにおいて、百貨店、ショッピングモール、学校、映画館、体育館、アリーナなどの娯楽施設を閉鎖し、飲食店はテイクアウトメニューのみの販売が認められることになりました。スーパーマーケット、コンビニエンスストアなど、食品等生活必需品を販売する店舗は、開店が認められています。

タイ政府は、外交官や労働許可証所持者等(COVID-19と診断されていないことを示す健康証明書の所持が必要)一部の例外を除き、外国人のタイへの渡航を禁止するとともに、ミャンマーやカンボジアなどの近隣諸国とも国境も閉鎖しました。さらに同年4月2日、国民に対し、原則として午後10時から午前4時までの間に居住地を離れないこと、当該規則に反した場合には処罰される可能性があるとの規制を発令しました。

上記のような制限措置により、タイにおけるCOVID-19の症例数は減少傾向となり、タイ政府は同年5月1日に一部の規制緩和を発表し、レストラン、市場、空港、バスターミナルの稼動を再開することを認めるとともに、一部のLCC(ライオンエアー及びエアアジア)の国内線フライトは、同日から運航を再開しています。 さらに、同月15日、タイ政府は規制の更なる緩和を発表し、外出禁止時間を午後11時から午前4時に短縮するとともに、一定の予防措置を講じることを条件に、百貨店、体育館及び会議場の開店を許可しました。もっとも、外国人のタイへの入国禁止はまだ解除されていません。

制限措置により国民や事業者の財政状態が悪化したことを受け、以下のとおり金融支援措置を講じていますので、その概要を紹介します。

2.中小企業に対する金融支援措置

2020年4月18日、「COVID-19の影響を受けた事業主に対する財政支援に関する法令」[1]が制定され、中小企業に対して、追加融資及び返済期日延期の2つの財政支援措置を行う方針が示され、同年4月22日、タイ銀行(BOT)は、当該勅令に基づき、各措置を実施するための2つの告示を公表しました。

(1) 追加融資[2]

BOTは、金融機関が中小企業に対して追加融資を行うことができるように、金融機関に対して、予算総額5000億タイバーツ以下の臨時融資を低金利(年0.01%)で行うこととしました。当該金融機関への臨時融資の返済期日は、金融機関がBOTから当該貸付を受けた日から2年以内とされています。金融機関は、中小企業の追加融資について、当該融資の利用目的が既存貸付の返済のためではなく事業運営に供する目的であることを確認する義務を負うものとされています。当該追加融資の内容は、以下のとおりです。

ア.追加融資の申請をすることができる中小企業事業主の基準

① タイ国において登録された個人又は法人であり、かつ、タイ国においてその事務所を有し、事業運営をしていること

② 証券取引所に上場している者でなく、かつ、金融機関業務を営んでいない者[3]

③ 2019年12月31日時点で不良債権(NPL: non-performance loan)を有する債務者ではないこと

④ グループ事業体[4]として、2019年12月31日時点で、各金融機関との間の事業運営のための融資額が5億タイバーツ以下であること[5]

イ.中小企業事業主に対する追加融資の内容

① 融資金額は、2019年12月31日時点の金融機関に対する既存債務の20%以内

② 2年間2%以内の利率で、利息は、実際に実行された貸付金額に対して算定される

③ 貸付開始6か月間は無償利息

④ 手数料なし

⑤ タイ政府は、金融機関に対し、当該事業の貸付契約に基づく既存の与信限度額が5000万タイバーツを超えない場合には当該貸付金の70%、既存の与信限度額が5000万タイバーツを超える場合には、当該貸付金の60%の損失を保証する

もっとも、金融機関は、この告示に基づく追加融資額を超える金額について、2%を超える利率を設定する等、異なる条件を付して、中小企業に対する更なる追加融資を検討することができます。当該追加融資は、事業主の新規融資とみなされ、事業主は、融資の実行を1回又は複数回とすることについて選択することができます。

ウ.追加融資の申込期間

2020年4月23日~同年10月22日まで

(2) 貸付金の返済期日の猶予[6]

BOTは、当該告示において、金融機関に対し、事業主に対する貸付金の返済期日の猶予を命じており、その内容は以下のとおりです。

ア.返済期日の猶予対象となる中小企業事業主の基準

① タイ国において登録された個人又は法人であり、かつ、タイ国においてその事務所を有し、事業運営をしていること

② 2019年12月31日時点で、不良債権(NPL: non-performance loan)を有する債務者ではないこと

③ グループ事業体として、2019年12月31日時点で、各金融機関との間の事業運営のための融資額が1億タイバーツ以下であること

イ.返済期日の猶予の内容

① 金融機関との間の全ての残債務について、当該公告発令日である、2020年4月22日から6か月間、元本及び利息の返済を自動的に猶予すること

② 返済期日の猶予は、中小企業の信用記録に影響を及ぼすような債務不履行や債務整理とはみなされない

③ 金融機関は、この返済期日の猶予期間中も、引き続き貸付利息を算定することができる

ウ.猶予期間後の返済

元本及び利息の猶予期間後の金融機関による回収方法は、債務者に不当な負担を生じさせてはならないとされています。金融機関は、返済猶予期間終了時に一括返済を要求することはできず、返済方法は、各金融機関と債務者との交渉により決定することになります。

エ.返済猶予期間

2020年4月23日から同年10月22日まで



[2] BOT Notification No. SorGorSor1.2 / 2563 https://www.bot.or.th/Thai/FIPCS/Documents/FPG/2563/ThaiPDF/25630100.pdf (タイ語のみ) 

[3] 金融機関業務とは、(a) 金融機関業務に関する法律に基づく商業銀行、及び (b) 融資提供業務を行う金融機関に関する法律に基づく専門金融機関をいう。

[4] グループ事業体とは、親会社、子会社、関係会社及びこれらの関係者のうち、BOT告示「単発貸付限度額」に規定する、その財務状況と借入金返済能力とが密接な関係を有するグループに所属する者をいう。(https://www.bot.or.th/Thai/FIPCS/Documents/FPG/2551/EngPDF/25510325.pdf (英語))

[5] 事業者が複数の金融機関と融資契約を締結した場合、当該事業者は、与信限度額が5億タイバーツを超えない限度において、各金融機関に対して、当該告示に基づく追加融資を行う権利を有するものとする。

[6] BOT Notification No. SorGorSor1.3 / 2563 https://www.bot.or.th/Thai/FIPCS/Documents/FPG/2563/ThaiPDF/25630101.pdf (タイ語のみ) 

コメント3 2020-04-28 102810.jpg

文責:弁護士法人大江橋法律事務所 パートナー弁護士 金丸 絢子
   弁護士法人大江橋法律事務所 外国弁護士 ラートティーラクン ナットアプソン

記事に関連するセミナー情報

2023.07.19
【オンラインセミナー:録画配信】Indonesia Recover Stronger: Positive Signal for Investors & Key Legal Updates in Southeast Asia
2023.07.14
【オンラインセミナー】Indonesia Recover Stronger: Positive Signal for Investors & Key Legal Updates in Southeast Asia
2023.02.15
Workshop on patent information retrieval via patent databases for research and development technology
2021.10.06
NYSBA - アジアにおける人身売買:現代の形態の奴隷制 (Human Trafficking In Asia: Modern-Day Forms Of Slavery)
2021.01.18
【オンラインセミナー:録画配信】タイ法務アップデート「タイにおける倒産手続」「タイ個人情報保護法」
2020.02.20
東南アジアにおける個人情報保護法制
2019.01.21
アジア法務朝活セミナーシーズン2第5回:タイ・インドネシアにおけるEC(電子商取引)の利活用~越境ECの実務と諸問題~
2018.05.17
【東京】アジアビジネス投資リーガルセミナー
2018.05.15
【名古屋】海外贈収賄規制の実務-中国、東南アジア諸国を中心に
2017.11.22
海外子会社と内部統制
2017.05.31
海外子会社と内部統制
2017.04.24
東南アジア各国におけるM&Aの実務上の留意点<名古屋>
2017.02.09
東南アジア各国におけるM&Aの実務上の留意点<大阪>
2016.12.14
東南アジア各国におけるM&Aの実務上の留意点<東京>
2016.04.20
東南アジア進出・業務の実務 ~インドネシア、タイ、ベトナムを中心に~
2015.09.29
インド、タイ、ベトナム、インドネシア各国の会社法制と日本企業の実務対応
2015.09.11
トマトASEANビジネスセミナー「タイ・カンボジア・ラオスへの投資・進出・取引の基礎」
2015.06.11
東南アジア進出時の法的留意点:インドネシア・タイ・ベトナムを例に

MORE

記事に関連する執筆情報

MORE

記事に関連する弁護士等の情報

ページTOPへ