【コロナ特集:タイ②】会社手続の緩和措置及び雇用措置(2020年5月28 日時点)

1.会社手続の緩和措置

COVID-19の感染拡大の影響を受け、通常のスケジュールで会社手続を進めることが困難な場合となったことに鑑み、タイ政府は以下の緩和措置を認めています。

(1) 株主総会開催日に関する期限の延長

タイの民商法によれば、会社は年に1回以上株主総会を開催する義務があり(民商法第1171条)、会社の財務諸表は事業年度終了後4か月以内に株主総会で承認されなければならないため(民商法第1197条)、会社は通常、事業年度終了後4か月以内に株主総会を招集し、財務諸表の承認決議をすることになります。当該期限を遵守しない場合、会社及び取締役は罰金刑に処せられる可能性があります。

タイの大半の会社の事業年度は、12月31日までであるため、通常、株主総会の開催日の期限は、2020年4月30日ですが、COVID-19の流行により、当該期間に株主総会の開催することは困難となりました。そこで、会社手続を所管する事業開発省(Department of Business Development、”DBD”)は、同年3月4日、COVID-19により影響を受ける株主総会開催に関するDBD通知を発令しました[1]

当該通知では、COVID-19の影響を受け、法律で定められた期限内に株主総会を開催することができなかった会社(上場、非上場会社を問わない)が、その期限後に株主総会を開催することを認める内容となっています。株主総会終了後、会社は状況を説明した書面[2]をDBDに提出し、DBDはその都度法令違反に関する罰金の免除を検討するものとされており、ほぼ全ての会社に対して免除措置が取られるものと想定されます。

(2) 株主名簿及び財務諸表の提出期限の延長

タイの民商法では、会社は、株主総会後、毎年以下の2つの書類をDBDに提出することが義務付けられています。

① 株主名簿:株主総会の日から14日以内に提出

② 株主総会で承認された財務諸表:株主総会の日から1か月以内に提出

前述のとおり、COVID-19の影響で株主総会の開催が遅れるため、これらの書類の提出も遅れることが想定されるところ、これらの書類については、実際に株主総会が開催された日を基準として、前述の法律で規定される期限までの提出が求められています。

タイに地域事務所、駐在員事務所、支店などを有し、財務諸表の提出のみを義務付けられている外国法人については、当該外国法人の決算期末が2019年10月31日から2020年3月31日までの間に到来する場合には、財務諸表の提出期限を同年8月31日まで延長することが認められています[3]

(3) 取締役会及び株主総会の電子会議(e-meeting)に関する新基準

COVID-19の流行の前は、リモートによる会議開催の制度は、定足数の少なくとも3分の1が会場で実際に出席しなければならず、全ての出席者が会議開催時にタイにいることが必要である等、様々な規制がされていたため[4]、実務上ほとんど運用されていませんでした。しかし、COVID-19の流行により、実際に会議開催が困難となったため、タイ政府は、2020年4月18日、電子会議に関する緊急政令を発表しました[5]。当該政令において、従前の電子会議に関する厳格な規制は取り消され、同年4月19日より、会社の取締役会及び株主総会において、以下の基準を適用することが認められています。

ア. 出席者及び会議場所

電子会議の定足数を満たすために、出席取締役又は株主は、同一の場所及びタイ国内に所在する必要はなく、会議の定足数は、通常どおり、タイの民商法及び会社の定款の定めに従い、算定することが可能となりました。

イ. 電子会議の招集通知

招集通知は、電子メールで取締役又は株主に送付することができます。会議の議長は、招集通知の写しを会社の記録として保管する必要があります(書面によるか電子的記録によるかは問いません)。

ウ. 電子会議の開催

電子会議を開催するには、議長は、次の事項を行う必要があります。

① 会議開始前に、出席する取締役又は株主を特定すること

② 投票又は挙手による投票を容易にする方法で開催すること

③ 情報通信技術省(Ministry of Information and Communication Technology)が定め、タイ政府が公表した電子会議のセキュリティ基準[6]に従って開催すること

④ 電子会議全体の音声又は録画記録を作成し、会社の記録の一部として保管すること

⑤ 電子会議の議事録は、文書で作成すること


[1] DBD Notification re: Supporting Measures for the Spread of Covid-19 which may Affect the Convention of Shareholders’ Meeting of Legal Entities B.E. 2563 (2020) dated 4 March 2020 https://www.dbd.go.th/download/PDF_law/dbdlaw_covid2019_630304.pdf(タイ語のみ)

[2] 書面のフォームは、以下のウェブサイトで提供されている。

https://www.dbd.go.th/download/regis_file/covid19/dbdregist_exam_COVID19.pdf

[3]DBD Notification re: Extension of Deadline for Financial Statement Submission of Registered Partnership, Legal Entities Registered under Foreign Laws which Conduct Business in Thailand, and Joint Ventures under Thai Revenue Act B.E. 2563 (2020) dated 25 March 2020

https://www.dbd.go.th/download/PDF_law/dbdlaw_covid2019_630304.pdf(タイ語のみ)

[4] Section 1 of the National Council for Peace and Order Announcement No. 74/2557 Regulating E-meetings dated 27 June 2014

[6] 電子会議のセキュリティ基準は、2020年5月現在、情報通信技術省告示「電子会議のセキュリティ基準」B.E.2557(2014)に準拠する。

http://www.ratchakitcha.soc.go.th/DATA/PDF/2557/E/246/12.PDF(タイ語のみ)

2.雇用に関する措置

(1) 従業員に対する隔離措置

タイ労働法[7]においては、従業員が病気(COVID-19の感染によるものを含む)になった場合、従業員は、病気罹患中につき病気休暇を取得する権利を有し、当該休暇期間については、最大30日間について有給休暇とすることができます。もっとも、その疾病が従業員の職務の履行に起因するいわゆる労働災害に該当する場合においては、その疾病により労働することができない期間は病気休暇とはされず、使用者は、その期間中の賃金を支払う義務を負います。

COVID-19の場合のように、従業員が感染のリスクにさらされ、隔離されなければならない場合には、当該隔離日についてタイ労働法は適用されません。使用者は、従業員に対し、隔離期間中、まず自宅に滞在し、年次有給休暇を使用するよう命じなければならず、年次有給休暇日数を超える隔離期間となり、従業員が隔離措置を理由として労働できない場合には、その日数分の賃金は支払われないことになります。

(2) COVID-19の影響を受ける企業がとり得る措置

COVID-19の流行によって、一時的又は永久的に事業を閉鎖・縮小しなければならず、又は従業員に対する給料を削減しなければならない企業は、以下の措置による対応をすることができます。

ア. 当局から事業停止を命じられた企業

バンコクや他のいくつかの地域では、COVID-19の感染拡大を防ぐために、当局から、一定の事業を営む企業に対し、一時的な事業停止が命じられました。当局の命令により、事業を停止しなければならない事業主は、不可抗力とみなされ、この期間中に従業員に賃金を支払う必要はないことになります。ただし、従業員には社会保障財政支援制度が適用されます。

イ. 自主的に事業停止や縮小を行う企業

事業主は、タイ労働法に基づき、1年以上勤務した従業員に対して、少なくとも6日間の年次有給休暇を与えなければならないとされています。このため、事業主がCOVID-19の影響により、自主的に事業の停止・縮小を決定した場合、従業員の同意があれば、従業員に対し、この期間について年次有給休暇の取得を求めることができます。従業員が年次有給休暇を取得することに同意した場合、従業員は、タイ労働法に基づき、休業期間中も引き続き賃金を受け取る権利を有することになります。

事業の停止・縮小による休業期間が従業員の年次有給休暇日数を上回る場合については、タイ労働法に基づき、事業主が不可抗力以外の理由で通常の事業の運営をすることができない場合には、事業の全部又は一部を一時的に停止することができますが、従業員は、休業期間中、通常の労働日に支払われる賃金の少なくとも75%を受け取る権利を有することになります。この場合、事業主は、従業員及び労働監督官に対し、業務の停止の3営業日前までに書面で通知しなければならず、また、当該期間中の拠出ができないため、業務停止について社会保障基金(Social Security Fund)に報告しなければなりません。

もっとも、事業主が従業員に当該75%の賃金を支払うことが困難である場合には、事業主は、従業員に対し、無給の休暇取得又は賃金減額を求め、書面による合意をすることができます。従業員の雇用条件の変更は、従業員の書面による同意が必要とされていますので(労働関係法20条)、同意取得の手続を経ることが必要となります。

(3) 従業員の解雇

COVID-19の深刻な影響を受け、多くの企業において、従業員を解雇しなければならない事態となることが想定されます。その場合には、事業主は、法令で定める期限までに従業員に対する事前の通知をする必要があり[8]、事業主が事前通知を行わない場合、従業員は、以下で定める退職金及び未消化の年次有給休暇に加え、事前通知を怠ったことに対する追加の報酬を受領する権利を有します。もっとも、これらの報酬に加えて、不当解雇を理由とする追加の報酬を求めることはできません。タイ労働法第118条によれば、退職金は、従業員の勤続年数に応じて定められており、詳細は以下のとおりです。

勤続年数

退職金

120日以上1年未満

30日分の賃金

1年以上3年未満

90日分の賃金

3年以上6年未満

180日分の賃金

6年以上10年未満

240日分の賃金

10年以上20年未満

300日分の賃金

20年以上

400日分の賃金


[7] Thai Labor Protection Act B.E. 2541 (1998)

[8]Section 582 of Thai Civil and Commercial Code

https://www.samuiforsale.com/law-texts/thailand-civil-code-part-2.html (英語)

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文責:弁護士法人大江橋法律事務所 パートナー弁護士 金丸 絢子

   弁護士法人大江橋法律事務所 外国弁護士 ラートティーラクン ナットアプソン

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