【コロナ特集:会社法③】2020年度の株主総会対策~株主総会当日の新型コロナウイルス感染症対応~

 3月決算の会社で、6月中に定時株主総会を開催することとした会社では、現在、株主総会の開催に向けた準備に追われていることと思います。本稿では、6月中に定時株主総会を開催する場合に、株主総会当日の対応に関する検討事項として考え得るものについて、法的観点から解説します。

1. コロナウイルス感染症への罹患が疑われる株主の入場制限

 本年の株主総会では、受付時に検温を実施する会社が多いと思われますが、検温の結果、発熱が確認できた場合、新型コロナウイルス感染症に罹患している可能性があるとして、株主の入場を拒否することは法的に許容されるのでしょうか。

 本来、株主が株主総会の審議に参加し、議決権を行使することは株主の重要な権利であり、これを制限すれば決議取消し事由となり得ます[1]。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大をうけて、経済産業省と法務省が連名で公表した「株主総会運営に係るQ&A」[2]Q5においては、新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、ウイルスの罹患が疑われる株主の入場を制限することや退場を命じることも可能との見解が示されています。株主の会場への入場制限は慎重であるべきとは考えられるものの、経済産業省と法務省の連名でこのような見解が示されていること、また、株主総会に出席する他の株主や会社の関係者の安全を確保すること、さらに現在の緊迫した状況を踏まえれば、議長に与えられている退場権(会社法315条2項)、あるいは秩序ある会議体として株主総会の議事を運営する責務を負う会社の権限に照らし、本年6月の株主総会においては、例えば検温の結果37.5度を超える株主については一律に入場を拒否するといった対応をすることも許容されるのではないかと考えられます。

 なお、入場を拒否する場合でも、その株主が議決権の行使ができる方策を用意しておくことが望ましいと考えられ、例えば、①議決権行使書による議決権の行使期限(会社法311条1項、会社法施行規則69条)は過ぎているものの、かかる行使期限は集計という会社の便宜のためのものであり、会社の判断で採決に入る時まで事前の議決権行使を受け付けることを会社法は許容していると解釈し[3]、当該株主が持参した議決権行使書での議決権行使を認める、②受付に委任状勧誘規制に従った参考書類と委任状を準備しておき、会社の従業員等が代理人として当該株主から委任状を預かり、議決権行使をする[4]等の対応があり得ると考えられます。


[1] 大阪地判昭和49年3月28日判タ306号187頁

[3] このような考え方を指摘するものとして、経済産業省「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」(https://www.meti.go.jp/press/2019/02/20200226001/20200226001-2.pdf)9頁脚注6参照。

[4] 倉橋雄作「新型コロナウイルス感染症と総会開催・運営方針の考え方-リスク管理のあり方が問われる2020年定時株主総会-」商事法務2227号12頁

2. 質問数の制限・審議の打切り

 本年の定時株主総会においては、時間短縮のために質問数の制限や短時間で審議を打ち切るという対応が考えられます。

 この点、議長が合理的な範囲内と認められる質問数等の制限を課すことは、議事整理権(会社法315条1項)に基づき許容されると解されており、質問は一人につき1問・1項目とすることも許容されると解されています[5]。また、議長は、平均的な株主が客観的にみて会議の目的事項を理解し、合理的に判断することができる状況にあると判断したときは、まだ質問等を求める者がいても、そこで質疑を打ち切って議事進行を図ることができると解されています[6]

 この点、通常の株主総会であれば質疑に要する時間として約1時間程度が一つの目安になるところですが、本年の株主総会では、さらに短時間で審議を打ち切ることも考えられます。また、通常の株主総会において、審議の打切りをする場合には、円滑な議事運営のために打切りの可否を株主総会に諮ったり、「あと何名で終わりとします」といった打切り予告をするのが通常ですが、本年の株主総会では、質疑に入る前に、「時間短縮のために質疑の時間は30分とさせて頂きたいと思いますが、よろしいでしょうか。」といった形で、審議時間を予告し、審議時間について事前に株主からの了解を得たうえで、できるだけ多くの株主からの質問に回答できるように、質問をする株主に対しては、質問を簡潔にすることを求める等といった対応も考えられます。この点、審議に入るに先立って質疑時間を一般的に制限することは問題であるとの指摘もありますが[7]、現下の状況に鑑みれば、株主及び会社の関係者の安全確保の観点からの株主総会の時間の短縮という要請と、円滑な議事運営、株主の質問権の確保といった要請を満たすという目的のために、質疑時間を事前に予告する上記のような対応をすることも許容されるのではないかと考えられます。


[5] 名古屋地判平成5年9月30日資料版商事法務116号188頁

[6] 前掲注(5)の名古屋地裁判決

[7] 東京弁護士会会社法部会編『新・株主総会ガイドライン〔第2版〕』94頁(商事法務、2015年)

3. 継続会を開催する場合の対応

 継続会を開催するためには、①株主総会においてその続行を決議することと、②継続会の開催日時・場所を決議する必要があると解されておりますが、開催日時・場所については、その具体的な決定を議長に一任する決議を行うことも許容されると解されています[8]

 そのため、6月中に株主総会を開催するものの、決算・監査業務の遅延により、計算書類及び連結計算書類の報告並びに事業報告については継続会で実施することとした場合、6月中に開催する定時株主総会においては、①株主総会を続行し、決算・監査業務が完了し次第、速やかに継続会を開催することと、②継続会の日時・場所の決定は議長に一任することを議場で諮り、株主の承認を得る必要があります。なお、継続会開催の決定は、議事運営に関する事項の決定であるため、株主総会に出席した株主の議決権(委任状により出席した株主の議決権を含み、議決権行使書又は電磁的方法により行使された議決権は算入しない。)の過半数をもって決定されます。

 この点、継続会の開催日は、当初の株主総会から相当の期間内であることを要し、相当の期間内とは当初の株主総会の開催日から2週間以内とするのが通説でしたが[9]、関係者の健康と安全に配慮しながら決算・監査の事務及び継続会の開催の準備をするために必要な期間の経過後に継続会を開催することは許容されるとの考えから、金融庁、法務省及び経済産業省の連名で「現下の状況にかんがみ、3ヶ月を超えないことが一定の目安になるものと考えられる」との見解が公表されています[10]。そのため、議場で継続会の開催時期に関して質疑があった場合、現在の状況では、9月末までに開催することを前提にした答弁も許容されると考えられます。

 また、継続会を開催する場合、当初の株主総会とその継続会とは同一の株主総会であるとされますので、改選期にある役員(役員の任期が本年の定時株主総会の終結の時までとされている役員)の任期は、継続会の終結時になると考えられます。しかし、この点に関しては、法務省より、6月中に開催する定時株主総会における決議により、6月中に開催する株主総会の時点において改選期にある役員の任期が満了するものとする取扱いをすることも可能であるとの見解が示されています[11]。そして、この取扱いをする場合には、株主総会の議事録に「改選期にある役員の任期が本日開催の株主総会の時点で満了する」旨の記載と「本日開催の株主総会でその後任を選任した」旨の記載が必要になるとされています。


[8] 江頭憲治郎=中村直人編著『論点体系 会社法2 株式会社II』524頁(第一法規、2012年)

[9] 江頭=中村・前掲注(8) 524~525頁

[10] 金融庁=法務省=経済産業省「継続会(会社法317条)について」(http://www.moj.go.jp/content/001319514.pdf

[11] 法務省「商業・法人登記事務に関するQ&A」(http://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/hisho06_00076.html)Q2-1

4. 株主総会議事録の作成

(1) テレビ会議システム等を用いて役員や株主が出席した場合の株主総会議事録

 テレビ会議システム等を用いて役員や株主が株主総会に出席した場合は、その出席方法を株主総会議事録に記載する必要があります(会社法施行規則72条3項1号)。また、出席の方法として、開催場所との間で情報伝達の双方向性と即時性が確保されている状況を基礎づける事実の記載が必要であると解されています[12]

 そのため、本年の定時株主総会において、一部の役員や株主がテレビ会議システム等を用いて株主総会に出席した場合、株主総会議事録には、「取締役〇〇〇〇及び監査役△△△△は、テレビ電話会議システムを利用しての出席であるが、議長は、審議に先立ち、出席者の姿及び音声が他の出席者に伝わり、出席者が一堂に会するときと同等に相互に円滑に意思の疎通ができることを確認した。」といった記載をする必要があります。

 なお、役員や株主がテレビ会議システム等を用いて株主総会に出席した場合でも、役員や株主の所在場所は株主総会議事録の記載事項とはされていないため、役員や株主の所在場所を株主総会議事録に記載する必要はありません。

(2) 株主総会議事録への電子署名の可否

 法務省から新経済連盟に対する通知により、法務省からは、取締役会議事録に関する電子署名に関して、サービス提供事業者が利用者の指示を受けて電子署名を行うサービスであっても、取締役会に出席した取締役又は監査役がその意思に基づいて行われたものである限り、電子署名として有効であるとの見解が示されました[13]

 これに対して、株主総会議事録については、会社法上、署名押印は求められていませんが、会社の中には定款において、出席した取締役及び監査役が署名若しくは記名押印し、又は電子署名をする旨の定めを置いている場合があります。法務省から見解が示されたのは、取締役会議事録が電磁的記録で作成されている場合の電子署名(会社法369条4項、同法施行規則225条1項6号)に関してですが、取締役会議事録に関して有効と認められる電子署名に関し、株主総会議事録についてこれと異なる解釈をする理由はないと考えられますので、法務省が示した新たな電子署名に関する解釈は、株主総会議事録に電子署名する旨の定款の定めがある場合の電子署名にも当てはまると解して良いのではないかと考えられます。

 もっとも、株主総会議事録や株主リスト等の登記申請の添付書類として使用する書類については、注意が必要です。登記の申請書に添付すべき書面は、原則としてすべて電磁的記録で作成することが可能ですが(商業登記法19条の2)、これには作成者による電子署名が必要とされており(商業登記規則36条3項)、また、作成者によって電子署名がされたことを確認するため、次のいずれかの電子証明書を記録する必要があります(商業登記規則36条4項)。

 ア 電子認証登記所の登記官発行の電子証明書

 イ 地方公共団体情報システム機構が発行する公的個人認証サービスの電子証明書

 ウ 指定公証人の電子証明書

 エ 法務大臣の指定する電子証明書(法務大臣が指定している電子証明書については、脚注のリンクを参照[14]。)

(2020年6月18日追記:2020年6月15日付で法務省のウェブサイトが更新され、利用できる電子証明書が追加されました。利用できる電子証明書の最新情報は、脚注[15]のリンクの「第3 電子証明書の取得」の箇所をご参照ください。)

 このように、商業登記規則では、利用できる電子証明書が限定されており、これ以外の電子証明書は認められません。よって、上記の電子証明書を用いた電子署名ができない場合、登記申請の添付書類として使用する株主総会議事録や株主リスト等については、電磁的記録で作成することはできず、従来どおり、書面で作成し、記名捺印する必要があります。


[12] 相澤哲=葉玉匡美=群谷大輔編著『論点解説 新・会社法』472頁(商事法務、2006年)

(作成日:2020年6月12日)

(最終更新日:2020年6月18日)

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IMG_Lawyer_Takuro-Yamaguchi.jpg文責:弁護士法人大江橋法律事務所 パートナー弁護士 山口 拓郎

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