【コロナ特集:会社法②】2020年度の株主総会対策~株主総会当日までの新型コロナウイルス感染症対応~

  

 3月決算の会社で、6月中に定時株主総会を開催することとした会社では、現在、株主総会の開催に向けた準備に追われていることと思います。本稿では、6月中に定時株主総会を開催する場合に、株主総会当日までの検討・対応事項として考えられるものについて、法的観点から解説します。

1. 株主総会に出席する役員の人数

 本年の株主総会では、新型コロナウイルスの感染拡大防止や役員自身の感染リスクを回避するために、株主総会に出席する役員を一部の役員に限定することが考えられますが、役員が株主総会を欠席することは会社法上、許容されるでしょうか。

 この点、会社法において、取締役、監査役等の役員の株主総会への出席は、株主総会成立の要件とはされていません。しかし、取締役、会計参与、監査役及び執行役は、説明義務を負うため(会社法314条)、一般的には株主総会への出席義務があると解されています。もっとも、合理的な理由がある場合には欠席することは許されると解されており[1]、また、欠席したことで直ちに株主総会が違法になるわけではなく、役員が株主総会を欠席した結果、株主からの重要な質問に対して適切な説明がないまま株主総会決議が強行されたような場合(説明義務の違反があった場合)に、株主総会決議の取消し対象になると解されています[2]

 そして、現下の状況に鑑みれば、新型コロナウイルスの感染拡大の防止を図るという理由や役員自身の感染リスクを避けるという理由は、株主総会を欠席する合理的な理由になるのではないかと考えられます。そこで、本年の株主総会においては、株主総会当日までに、説明義務を適切に履行するという観点から、どの役員が出席していれば、株主からの質問に対して十分に説明を果たせるかを検討し、説明義務を適切に履行するための最低限の人数(監査役会設置会社であれば、最低限、取締役と監査役それぞれ1名が出席するなど)の出席にとどめ、それ以外の役員は欠席するといった対応をとることが考えられます。なお、出席予定だった役員が発熱等のために株主総会への出席を控えるべき状況になることも考えられますので、そのような場合に、代わりに出席する役員を検討し、代わりの役員であっても、適切に説明義務を履行できるように準備しておくことも必要であると考えられます。


[1] 江頭憲治郎=中村直人編著『論点体系 会社法2 株式会社II』492頁(第一法規、2012年)

[2] 監査役の欠席について、稲葉威雄ら編著『〔新訂版〕実務相談株式会社法2』770頁(商事法務研究会、1992年)

2. 株主総会に役員が出席する方法(テレビ会議等を通じた株主総会への出席)

 一部の役員がテレビ会議等を通じて株主総会に出席することは可能でしょうか。

 この点、会社法施行規則72条3項1号は、株主総会議事録の記載事項として「当該場所に存しない取締役〔中略〕、執行役、会計参与、監査役、会計監査人又は株主が株主総会に出席した場合における当該出席の方法」を規定していることから、会社法は、取締役等がテレビ会議システム等によって株主総会に出席することも認めていると解されます。

 そして、出席の方法としては、情報伝達の双方向性と即時性が確保されている環境が確保されている方法であることが必要と解されており[3]、取締役会に関する事例ですが、会議室に置かれたスピーカーフォン機能(スピーカーと集音マイクを有し、受話器を取り上げなくても通話することができる機能)のない固定電話機と携帯電話をつないだだけでは、双方向性と即時性が確保されていないと判断し、会議室にいなかった者については取締役会に出席していたとは認められないと判断した裁判例(福岡地判平成23年8月9日[4])があります。しかし、現在、一般的に使われているテレビ会議システムや電話会議システム、Web会議システムであれば、情報伝達の双方向性と即時性が確保された環境が確保されているといえるでしょう。

 よって、本年の定時株主総会においては、現実に株主総会に出席する役員を一部の役員にとどめ、他の役員はテレビ会議システム等を通じて出席する方法をとることも十分に考えられます。



[3] 相澤哲=葉玉匡美=群谷大輔編著『論点解説 新・会社法』472頁(商事法務、2006年)

3. シナリオの短縮

 新型コロナウイルスの感染拡大を受けて法務省と経済産業省が連名で公表した「株主総会運営に係るQ&A」[5]のQ5では、株主総会の時間を短縮することは可能であり、例年に比べて議事の時間を短くすること等が考えられるとされています。そのため、本年の株主総会に向けて、株主総会の時間短縮のために例年用いているシナリオの一部省略を検討している会社も多いと思います。では、シナリオはどこまで省略することが許容されるのでしょうか。

 この点、定時株主総会は、通常、①議長就任宣言、②開会宣言、③出席状況報告、④発言上の注意、⑤監査役の監査報告、⑥事業報告・計算書類の説明、⑦決議事項の説明、⑧審議、⑨採決、⑩閉会宣言という順番で進められます。

 このうち、議長就任宣言(①)は法的に必ず必要というものではありません。開会宣言(②)は、必ずしも明示的なものでなくてもよく、議事に入ったものと客観的に認められれば良いと解されていますが[6]、簡潔に開会を宣言することが時間短縮につながると考えられます。

 出席状況報告(③)は、定足数を満たしていることの確認のために行われるものですが、これも必須のものではありません。しかし、株主から質問があれば、議長としての説明義務として説明すべきとされていますので[7]、簡単に「定足数を満たしています」とだけを述べることが考えられます。

 発言上の注意(④)は、法的に必要なものではありませんので、本年の定時株主総会では、受付時に発言上の注意を記載した書面を交付して済ませるということも考えられます。

 監査役の監査報告(⑤)については、取締役が株主総会に提出しようとする議案、書類、電磁的記録その他の資料に法令若しくは定款に違反し、又は著しく不当な事項があると認めるときは、その調査の結果を株主総会において報告する必要がありますが(会社法384条)、それ以外の場合に報告の必要はありません。よって、例年は任意で実施している監査役の監査報告について、本年の株主総会では省略するということも考えられます。

 事業報告・計算書類の説明(⑥)については、「お手元の招集通知に記載のとおりです」と述べるだけでも良いと解されています[8]。そのため、例年は多くの時間を割いている事業報告・計算書類の説明は、本年の株主総会では大幅に省略することが考えられますが、株主が役員の選任議案に関する意思決定をするにあたっては、直近1年間の事業の概況等はその参考となるべき情報ですから、対処すべき課題や連結業績の概況等の株主の関心が高いと思われる事項については最低限の説明をすることが望ましいと考えられます。

 決議事項の説明(⑦)についても、「お手元の参考書類に記載のとおりです」との説明で足りると解されていますので[9]、本年の株主総会では大幅に省略することが考えられます。

 審議(⑧)と採決(⑨)を省略することはできませんが、株主総会の時間短縮を目的に質問数を制限することや、質問を簡潔に述べることを要請することが考えられます。また、採決方法については、一括上程することも適法で、議長に広い裁量が認められていますので[10]、例年は個別上程方式を採用している会社であっても、本年の株主総会では、時間短縮を目的に一括上程方式を採用することが考えられます。

 そして、閉会宣言(⑩)についても、開会宣言と同様、簡潔に閉会を宣言することが時間の短縮につながると考えられます。また、例年、閉会宣言後に役員紹介等を行っている会社も多いと思いますが、本年の定時株主総会では、役員紹介等は省略することが考えられます。

 以上のとおり、株主総会のシナリオについては省略できる部分と省略できない部分がありますので、本年の株主総会では、以上の点を踏まえて、当日までにシナリオのどこを省略して、株主総会の時間短縮を図るかを検討することになると考えられます。


[6] 中村直人編著『株主総会ハンドブック〔第4版〕』372頁(商事法務、2016年)

[7] 中村・前掲(6) 373頁

[8] 中村・前掲(6) 373~374頁

[9] 中村・前掲(6) 374頁

[10] 名古屋地判平成5年9月30日資料版商事法務116号188頁

4. ウェブ開示による単体の貸借対照表や損益計算書のみなし提供を実施した場合の対応

 2020年5月15日に、会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令が公布され、同日から施行されました[11]。同省令は、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、2020年11月15日よりも前に招集の手続が開始される定時株主総会に限り、単体の貸借対照表や損益計算書等をウェブ開示によるみなし提供制度の対象とするものです。

 この改正によるみなし提供制度を用いることができるのは、事業報告及び計算書類に記載又は表示すべき事項に係る情報をインターネットを利用する方法で開示することにより、株主に対して提供したものとみなすことができる旨の定款の定め(会社法施行規則133条3項、会社計算規則133条4項)を置いている会社です。

 同省令により、新たにウェブ開示によるみなし提供の対象とすることができることとなった事項は、以下のとおりです(会社法施行規則133条の2第1項、会社計算規則133条の2第1項)。

 ア 事業報告のうち「事業の経過及びその成果」(会社法施行規則120条1項4号)

 イ 事業報告のうち「対処すべき課題」(会社法施行規則120条1項8号)

 ウ 貸借対照表及び損益計算書(監査役等による監査報告及び会計監査人による会計監査報告を含む)(会社計算規則133条1項)

 なお、貸借対照表及び損益計算書をウェブ開示によるみなし提供制度の対象にするには、上記の定款の定めに加え、以下の要件も満たす必要があります(会社計算規則133条の2第1項)。

 ① 会計監査人の監査意見が無限定適正意見であること

 ② 監査役等の監査報告に記載された意見が会計監査人の監査の方法又は結果を相当でないと認める意見でないこと

 ③ 監査報告に付記された個々の監査役等の意見が会計監査人の監査の方法又は結果を相当でないと認める意見でないこと

 ④ 特定監査役が監査報告を通知すべき日までに通知しなかった結果、監査役等の監査を受けたとみなされたものではないこと

 ⑤ 取締役会を設置していること

 そして、この省令改正による単体の貸借対照表や損益計算書等のウェブ開示によるみなし提供を実施した場合には、「株主の利益を不当に害することがないように特に配慮しなければならない」とされています(会社法施行規則133条の2第4項、会社計算規則133条の2第4項)。どのような配慮をするかは、各社が置かれた個別具体的な事情を踏まえた各社の判断によることになるものの、法務省からは、例えば次のよう方法をとることが考えられるとの考えが示されています[12]

 ア できる限り早期にウェブ開示を開始すること

 イ ウェブ開示した事項を記載した書面を株主に交付することができるように、ウェブ開示の開始後、準備ができ次第速やかに当該書面を株主に送付すること。あるいは、ウェブ開示した事項を記載した書面の送付を希望することができる旨を招集通知に記載して株主に通知し、送付を希望した株主に、準備ができ次第速やかに当該書面を送付すること

 ウ 株主総会の会場に来場した株主に対してウェブ開示した事項を記載した書面を交付すること

 よって、貸借対照表や損益計算書等のウェブ開示によるみなし提供を実施した会社では、株主総会当日までにウェブ開示した事項を記載した書面を送付したり、株主総会当日に当該書面を交付する準備が必要となります。


[12] 経済産業省・法務省・前掲(11)

(作成日:2020年6月9日)

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IMG_Lawyer_Takuro-Yamaguchi.jpg文責:弁護士法人大江橋法律事務所 パートナー弁護士 山口 拓郎

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